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Essay:Dial M

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vol.28 NORTH BY NORTHWEST  

Jul 2003

「アキタにマナベ!」今月の2ショットは眞鍋かをりさん。
NHK「サイエンスZERO」出演中。

改めて言うことでもないけれど、東京の空気はとーっっっても悪いよ。
そこで暮らしてるのだから大したモノだなあ。
なんて自分で感心しているばかりでは、知らずに気を病んでしまう。
たまには東京脱出。少しでも空気の良いトコロに行かねば。
ということで、多忙の最中にもかかわらず夏休みとって北に行きましたん。
疲れてくると、よく北に車でガーッと行ってしまう癖あるんです。
家の近所から高速に乗れば、仙台までアバウト3時間。(ホント?)
さらに走り続けること数時間、ついに青森に突入。
大鰐温泉で一泊。
ここはトンネルの上に、スキーしながらピースマーク出してるワニさんがいます。
大鰐というから、フカ料理でも有名なのかと想いきや、本来は「ワニ」ではなく「阿 仁」だったと宿の姐さんに聞く。

青森港からフェリーで4時間、北海道。
函館から札幌を越えてなお走り続け、ついに旭川まで辿り着く。
ここまで来ると、さすがに運転してても息切れしてしまう…。
旭岳は北海道の富士山、面積でいえば富士より大きい。
天人峡に泊まり、羽衣の滝の繊細な美しさをシカと見、美瑛の丘を一望。
サア帰るぞ。
ふたたび道を戻って函館で一泊、サカナがウマイ。


ちょうど天人峡に出現した羽衣

帰りは青森から“津軽富士”岩木山をぐるっと回って西津軽は黄金崎でまた一泊。
不老ふ死温泉の露天風呂は海縁にあって、日本海に沈む真赤な夕陽をトクと見られ る。
湯につかりながら神聖な気分に浸れるなんてね。
聖と俗の融合。
ここにこそ「ヒト」、て感じ。

翌日は念願だった白神山地を巡り、しばしの森林浴。
この山はやさしい。古く、美しく、毅然としている。
『NUMANITE』のような十二湖の神秘的な青色を覗いて、そこから秋田へと走 り、男鹿半島をぐるり一周。
「美野幸」の石焼き定食、見事に美味かった!
これまで秋田には足を踏み入れなかったけれど、実は密かに気にしていた。
短編集『ファントム・パーティ』にも秋田の話がさりげなく出てくるでしょ。

男鹿には“なまはげ”がいます。
大晦日の晩に家々を回る習俗だけれど、ここでは毎日それを見せてくれるところがあ る。その名も「なまはげ館」。
生ナマハゲ。
いつか見たかったので、これもいい機会でした。
「泣ぐ子はいねが!」
と叫ぶのは知っていたけれど、単に悪鬼の仲間かと想っていた。
伝承では中国から連れてこられた者が山へ追われたと言うから、鬼といっても異人の ことかと。
山で獣の生皮でも剥ぐのかと想っていたら、ナマハゲの語源は「ナモミハギ」。
ナモミとは怠けて火に当たっていると脛などにできる火だこで、能登半島では「アマ ミ」ともいう。
ナモミハギは、そんな怠け者は火だこを剥いでしまうぞ、と脅すのである。
似たような習俗は遠く鹿児島の離島にもあるらしい。
島や半島といった、辺境ならでは残っている貴重な行いなのですね。
しかし驚いたことに、男鹿だけで何十という種類のナマハゲのスタイルがあります。
ツノがなかったり、四つ目だったり。

ナマハゲは見たところは鬼だが、実は鬼神。
山から降りて人を脅すのではなく、年の節目に厄を払い、幸をもたらすのが役目だ。
神の遣いなんですね。
だから家人はこれに酒を振る舞い、もてなす。
彼らは7・5・3とシコを踏む。反閇(へんばい)である。
土地の霊を強化し、悪霊を鎮圧する。
これは陰陽道であり、陰陽師が行う厄払いと似たもの。
ということは元は道教。なるほど、中国から来たとはこのことか。
地元の信仰の基本は山岳信仰で、ここのナマハゲはご神山である真山からやってく る。
東北は全般に山岳信仰がいまだ色濃い。
恐山、岩木山、白神岳、月山などなど、観光地ではなく、しっかり神様が地に根付い ておられる山が数多い。
修験が絡むということは密教も絡み、ナマハゲ発祥の真山神社は神社とはいえ立派な 仁王門があり、弘法大師も奉られている。
こういうところを見ると、神道、仏教、道教と、さらに古い民俗信仰が習合した、日 本ならではの信仰の形態が実はとてもいい伝統を保っているのがわかる。
ナマハゲは家々を巡って、そこの住人たちを“叱る”。
親に代わって子供を叱り、夫に代わって嫁を叱り、一家の長である父親をも叱る。
えん魔帳を持って歩き、誰がどんな悪癖があるか、ちゃーんと見抜いている。
それを見ながら日々の行い、姿勢の過ちを指摘し、それを改めさせる役目がある。
本来、親が怒らねばならないところ、ナマハゲに怒ってもらう。
子供は怖がって泣くだろうが、それでもうんと怖がらせ、そして叱り付ける。
こうして叱られて育った子供は、魔が払われ、真っ直ぐな子に育つはずだ。
親の叱り方が良くないと、子供はいい子ぶっていても案外、気の小さいダメな人間に なっちゃうんじゃないかな。
そんな子供が中途半端な大人になって、中途半端なことをしでかす。
ものを盗んだり、人を傷つけたり殺めたり。
だからこういう習俗は、秋田に限らず、本来はもっとあっていいと想う。
特に東京には必要だよなあ、ナマハゲ。
例えば会社や役所なんかにもナマハゲはやってきて、お偉いさんたちの行状を怒る。
社長だろうと総理大臣だろうと、まっとうに怒られる。
「アメリカさ頭ばっか下げで、戦さに荷担するよな真似すでね!」とか。
誰かが神サマに代わって、しっかり怒らないと。
キリスト教のように神父が説教したり、自ら懺悔するだけじゃ、足りないでしょう。
ナマハゲにシッカリ怒られないと。
いい習慣だと想うな、ぼくは。
秋田に、学びましたよ。


十二湖の沸壺の池。
あちらとこちらの境界の鏡面。

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