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vol.25 “ごめんなさい”
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May 2003
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イラク戦争は終わった、ということになってる。
兵器を使うのが終わったというだけで、心の中の闘いが終結したわけではないでしょう。
戦後の支援の事がとやかく言われているけれど、その前にブッシュさん、世界のみんなに
ゴメンナサイはしたんだっけ?
主義主張はともかく、人々に多大な迷惑をかけた事実は揺るぎない。
たくさんの人が亡くなったんだし、家を失ったり家族と別れてしまったり、とにかく不幸
をまき散らした結果は明らかなんだから。
そんな世界の皆さんに、大きな声で「ごめんなさい」は?
日本語の「ごめんなさい」って、いい言葉なんだよね。
“I 'm sorry”とは、ちょっとニュアンスが違う。
アイム・ソリーは「私が悪うございました」って感じなんだけど、ゴメンナサイという響き
にはもっと相手想いの愛情を感じる。
最近、ごめんなさいが素直に言える大人になりたいと想う。
若い頃、まあ20代のうちぐらいは、なかなか言うのが難しいんだ。
だって自分は間違ってなかった、悪くなかった、だから謝る必要はない。
つい、そう想っちゃう。
自分が悪いとわかっている時は、もっと緊張しているから、言葉に詰まっちゃったり。
若い頃って、やはり自衛本能が活発なんだよね。
なかなか「ごめんなさい」と、自分の非を認めるのを嫌っちゃう。
「ごめんなさい」って言った瞬間に、自分が世界の中でとても駄目な悪い奴に感じちゃうか
らかもしれない。
一生懸命に努力した、だから自分に非はない、と想う人もいるけど、誰だってなんだって一
生懸命なんですよ。
本人が努力したということと、相手がどう感じたかは関係がない。
だって自分が悪くないはずなのに、アタマ下げるのは御免だ、と言うんですね。
それをプライドって言うヒトもいるけれど、ぼくはそれ、プライドじゃないと想う。
プライドもどき。
ホントのプライドって、むしろ「ごめんなさい」がハッキリと言える姿勢だと想う。
なんか、ごめんなさいイコール悪い事をした、と考えるかもしれないけれど、ぼくは良い事を
したって、ごめんなさいは言うべきだと想う。
自分は正しい、人のために良い事をしているはずだ、と本人がいくら想っていても、どこかで
誰かが不快な想いをしていないとは言い切れない。
いくら相手を想う気持ちがあっても、結果として迷惑をかけたなら、やはり素直に
「ごめんなさい」をするべき。
そんな言葉だけでは何にもならないと言うかもしれませんが、まず「ごめんなさい」ありきで、
そこから次にどうフォローすればいいか、という話ですよ。
ブッシュだけではないぞ。
元オウムの浅原くん、きちんと「ごめんなさい」は言いましたか?
迷惑をかけてしまった人々に、心をこめたお詫びはしたのでしょうか?
もうひとつ、それに対になる言葉で「ありがとう」というのがある。
人に何かしてもらったら「ありがとう」だよ。
「ごめんなさい」と言われたら、「ありがとう」を返す。
それが現代の人間というものだよ。
というわけで、アトムの誕生を祝ってくださった皆さん、ありがとう。
そしてお騒がせしてご迷惑をかけた方々に、心からごめんなさい。
ところで。
『天才の息子』が発刊されるとほぼ時を同じくして、夏目房之介さんが『漱石の孫』を上梓。
(実業之日本社)
手塚治虫の息子と夏目漱石の孫。
当事者が言うのもなんだけど、この二冊、驚くほど似ている!
本の体裁、構成からやさしく読める内容に至るまで。
もちろん、ふたりで申し合わせて狙ったんじゃありません。
ホント偶然なのですよ。
こういうのを、シンクロニシティ=意味のある偶然の一致、という。
しかも夏目さんは漫画評論を生業として、手塚治虫論も出されている。
だから手塚治虫は自分の第二の父親、とまで言い切る。
ということは夏目さんだって「天才の息子」なんですね。
岡野玲子の漫画をヨーロッパに紹介してくださったりと、ウチとは何かと縁が深いお方。
夏目さんは年齢も10年先輩で、本の値段も100円高い。(そりゃどうでも良いけど)
この二冊、両方お読みいただくと親子や家と言うものについて、さらに感慨深いモノある
と想いマス。
是非、ぜひ。
二世マニア(いるのかい、そんなの)向けに細かいネタを言えば、拙著の表紙で父親ソッ
クリ写真(あのベレー帽は実は父のもの)を撮っていただいた坂口綱男さんは、もちろん
『白痴』の原作者坂口安吾の息子さん。
その坂口綱男さんが父親に¨ついて書いた『安吾と三千代と四十の豚児と』(集英社)の表
紙はぼくの『白痴』に出演して安吾ソックリを演じた綱男さんの、スナップ。
ややこしく微笑ましい作家カンケイでしょ、これ。
もうひとつ、超マニア向け(いないだろ)のネタを言っておくと、拙著口絵6ページの老
人写真は太田逹也監督の8mm『REM』の出演スナップ。47ページの写真作品のモデ
ルは最新実験映画『2002』にも出演しているMANAちゃん。彼女はお茶の子シアタ
ーにも出ているよね。
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