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Essay:Dial M

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Vol.17 タイムリー

Oct 2002
ところで皆さん北朝鮮のこと、実はあまり知らないみたいで、国交はなくとも観光旅行はできたって知ってます?
タイミングによってはダメなときもあるけど、直行便の飛行機もたまに出ていて、新潟からは船も定期的に行き来しているのですよ。
ぼくが行ったのはもう2年前だけど、そのときも世界から観光客がたくさん訪れていた。休暇中の久米宏さんとバッタリ出会ったり。
現地にはちゃんと外国人観光客用の土産ショップだってあるし。 そこでは日本語の案内はもちろん、日本円でモノが買えるんですよ。(ホントだよ)
もっとも、観光地以外はなかなか立ち入りさせてもらえないけどね。
外国人用のホテルに泊まると、部屋のテレビでは日本の衛星放送だって映る。
北朝鮮の人はね、日本のことけっこう知ってるんですよ。テレビで見てるから。
日本の方が彼らのこと知らない。
的確な表現をすれば、40年前の日本を思い描いてもらえばいいかな。しかも鎖国中。
そこから時が止まっている感じ。
なんか『白痴』の世界。
だから違和感を覚えるとすれば、国民性の違いというより、時代が違うということ。
国民みんなが「陛下バンザーイ!」って叫んでたころの日本と、そんなに変わらないと想う。
マインドコントロールとか言うけど、日本だって戦前は、ね。
街の映画館で地元の映画も観せてもらいましたよ。
ムカシのテレビドラマみたいな映画だったけど。
小さなことで驚いたのは、家庭の食卓にパンとごはんが並ぶんですよ。
おかずは別にあって、ごはんとパンを両方一度に食べるの。
少なくとも映画の中では、ちゃんとした食事してましたよ。
向こうの人に「何がおいしい?」って尋ねると、「家のごはん」と答える。
観光地の食堂は、イマイチだったな。まあ、どこでもそんなモノだろうけど。
笑っちゃったのは、着いた日の夜にホテルから日本に電話して、「けっこういいところだよ」なんて言ったもんだから、「着いてすぐにいいところだなんて言うのはオカシイ。すでに洗脳されたか、銃で脅されてるんじゃないか」って凄く心配したんだって。
疑心暗鬼ってこういうのだよね。

時代のギャップって、この世界の不思議のひとつ。
このところ自分のムカシの作品にずっと付き合っているので、だんだん時間の感覚がワケわからなくなってきた。
で、その8mm映画のDVDなのだけど、1本は『MOMENT』といって、ちょうどぼくが大学に入った時に作ったもの。
これはそのときの自分にとっての最高傑作を作ろうと意気込んで、そこに運良くいい仲間が集まって、文字通り当時の代表作になった作品。
それこそ完全なインディーズだったけど、たくさんの人が観に来たのでいろいろな影響力があったと想う。
ぼくの仕事はここから始まったようなもので、これがきっかけして業界に知られて、テレビの仕事やら映画の出演やら、雑誌の仕事もできて、所属事務所とも巡り合ったという、運命の1本です。
あ、『星くず兄弟の伝説』もこの映画がきっかけで近田春夫さんに出会ったのだっけ。
いま観ると、途中に歌や踊りの場面があったり、最後に爆発があってたくさん火が燃えたり、『白痴』の原形のような場面がいっぱいある。
もう1本DVDになるのはテレビ番組で、これは当時テレビ東京系で放送していた『もんもんドラエティ』というドラマ+バラエティ番組の中の1コーナー、泣く子も黙る『お茶の子博士のHORROR THEATER』。
けっこう視聴率を取っていた番組だったから、記憶に残っているヒト多いみたい。
ホラーのショート・ムービー(1話3分)を毎週作って流していた。
かなり残酷な場面があって、子供さんは怖がってトラウマになったり、クレームもたくさんあった番組だったけど、それだけ話題だったということでしょうか。
たくさんファンレターもらって、テレビの力は違うなと実感してましたね。
コレ今までずいぶんリリースしてくださいという要望があったのだけど、放送時に 使っていた音の権利問題やなんかで不可能と想われていた。今回、ポニーキャニオン社の太っ腹で音をすべて作り直し、という形でリリースされることになったのです。
でもそのためにどうしても一部セリフの録音もやり直さなければならなくなり、ムカシの出演者がスタジオに集まった。
いわゆる“アフレコ”ってやつ。
といっても、それを作っていたのは1981年。つまり21年前だよ。
21年ぶりの対面。
まるでどこかに連れ去られていた人たちのように。
中には、いつの間にか中国に行って仕事をしていた人もいてビックリ。
もちろん拉致されてたわけじゃないけど。
お互いの(少なくともぼくの)記憶の中では、21年前の映像の姿で焼き付いている。そこに突然21年後の本人なのだから、いや、フシギ不思議。
記憶の映像と眼で見ている世界の刷り合わせ。
イメージが重なりあって揺れる。
そればかりか、彼らは21年前の自分の映像に、現在の声を入れなくちゃならない。
映像ってフシギだ。
他のメディアじゃ、なかなかこんなことできない。
21年前の自分と現在の自分が融合して、時間を飛び越えた人間を創りだす。
以前『妖怪天国』って作品で、演じている俳優の声を他の俳優がふきかえる、という離れワザをやったことがあるけど、今回はそれよりさらにセンセーショナル。
時を超えるのだから。

もちろん年齢とともに、みんな声は低くなっている。それとテンポが違う。若い時の方が話すスピードが速い。
そうか、若いっていうのはこういうことなのか、って。
時間の使い方が違うのだな。
でも、それ以外は本質的にあまり変わっていない。
試しに自分もやってみた。
21年前の自分の姿に声をつける。
やっぱり変わっちゃったなあ、と想っていたらプロデューサーから「まったく変わってませんね」のひとこと。
アタマの中で響く声と現実の自分の声とではチガウのだ。
出演者の中にはお子さん連れで現れた人もいる。
母親の若き姿を見て、子供さんは「ママに似ているけどママじゃない」と言い張る。
だよなあ、写真ならともかく、動いて喋って、しかも演技もしてるものな。
子供からみれば、異様なことだよね。
でもこうして当時の人々がまた集まってくれるのは、なんかウレシイ。
女性は子供さん連れなのが微笑ましいし、男性陣は現在もほとんどこの業界で生きている。三つ子の魂百まで、って感じですね。
当時の映画なんてヘタッピイだから恥ずかしいけれど、作っておいて良かったと素直に感じましたね。
しかも。
実は、今回のDVDのために密かに8mm撮影しちゃった。
21年前のスタッフを呼んで、21年前と同じようにカメラを持って、やってみた。
音楽なら21年ぶりバンド再結成、しかもムカシの音でレコーディング、という感じ。
そして見事に21年前のノリを再現。
つうか、相変わらずヘタッピイなのだけど。
でも、変えてみろ、といわれても変えられないかもね。
そうそう。葡萄畑ってバンドの24年ぶり再結成ライブをみたのだけど、最初に過去の映像が映って、若きころの衝撃的な姿を目撃。その後、オリジナル・メンバーで当時の曲をやるという、ここにも時間を超えた世界が出現。
迷曲「恐怖のこまわり君」もやってくれた。
そういえばピーター・ガブリエルの10年ぶりの新譜は、やっぱりジェネシスの頃を彷彿とさせるし、ソフト・セルの18年ぶりの再結成に至っては、こいつらナニ考えてるんだって文句いいたくなるほど、ムカシの音。一番あきれたのはジグ・ジグ・スパトニックの再結成 …つうか解散すらしていなかった… って、誰に言っても笑うけど、こいつらも変わってない。
変わりようがないのかもね。

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