7月11日(土)

スタッフ爆発寸前


6:00 メイク開始
9:00 準備開始
9:30 リハーサル開始
S#34一部(花村を慰めるスタッフ)(連れ込む将校)
S#67(伊沢遅刻)
S#46(伊沢耳切られる)
S#91(吉田堕落)

古典的な言い回しをすれば、泣いても笑っても後48時間しかない。撮影するカットは全カット 絵コンテとして発表されている。昼飯や準備の間ごとに、監督とカットの省略・欠番を相談に 行くが、進展はない。「撮れるだけ撮り続けましょう。演出には時間はかかってないのですか ら、……」
しかし、広いセットの中、時間に追われ準備をしているスタッフ・キャスト達。照明部は重い 機材を担いで駆け回り、メイク部・衣裳部は連日の早朝支度のため、時間がかかり始めている。
これからが本当の芝居場である。”銀河と落合に振り回される伊沢。そして、唯一人の理解者 である吉田の運命も、銀河によって狂わされていく。”段取りを進行させるだけではなく、お 芝居を引きだすための時間をかけなければならない。テストの回数も増えてくる。
そして、最大の難問は銀河のメイク。手塚監督の銀河の演出は、お芝居だけでなく、衣裳とメ イクで完成されたその姿にもある。衣裳デザインの伊藤さんとメイクデザインの柘植さんによ って、全シーン違う銀河のスタイルがデザインされている。その、支度替えに2〜3時間かかる。 一日に3回衣裳替えをするとそれだけで、9時間近くかかってしまう。柘植さんも懸命に時間 短縮で作業をするのだが、手を抜くわけには行かない。現場が急いで準備しても、メイクが終 わらない。シーンを消化できないのに、時間だけが過ぎて行く。誰のせいでもないが、いらだ ちが募る。この日も予定をワンシーン削るのだが、それでも終了は深夜になる。
もう、明日一日しか時間はない。撮影しきれる訳ないので開始時間もいつもより早めていた。 予算とスケジュールの都合で、明後日には別の撮影が始まるからだ。深夜終了にも拘らず、翌 日の開始時間を遅らせられない。ここで、遂に照明部がこれ以上休み無しに続けたら事故を起 こす!」と騒ぎだす。「疲れてむちゃしてるのは分かっているけど、物理的に撮影しきれない だろう。後24時間で終わらせなければならない。ぎりぎりまでやって、出来ないものはその時 はあきらめよう!」スタッフだけ残ったセットの真ん中で、怒鳴り合いが続く。
あちこちに無理がたたっていた。ここで、半日休みをとることは、スタジオシーンのクライマ ックスをあきらめることになる。撮影の背後にも予算上のトラブルが続出し、現場がこんな状 態にも拘らず、プロデューサーが立ち会えないほどだ。映画撮影も仕事である。それぞれが背 負っている立場があるし、精神論だけでは乗り切れない。プロデューサー部も監督も、現実的 な対応策を考える精神的なゆとりがなくなっていた。そして、そのしわ寄せは、こういう形で 現場に吹き出てくる。そんなことは1ヶ月も前に予想出来ていた。しかし、誰も対処出来なかっ た。起るまで現実に目をつぶってきた。そういう現場になっていた。
しばらく睨み合いが続き、とりあえず明日の午前2:00を最終ラインにすることで話し終え、ば らばらにみんな帰っていく。
僕は、この映画を始めた人たちの言うことを、チーフ助監督として最大限聞いてきた。そして、 この明日の午前2:00までと言う範囲が、僕が一人で守ることの出来る最後の砦だった。そこま では、全て僕の責任で押し通す。しかし、その先は、僕より上の人たちが行動することだろう。 それが出来なければ、僕にとってはそこで終わることになる。



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(C)Hakuchi Projects 1998